12.自白した愚か者を一匹駆除する

「アルムガルト伯爵でしたのね、まだ……ふふっ、そのように騒ぐと、周囲の注目を浴びますわよ」


 私は構わない。どころか、もっと衆目を集めてほしかった。でも彼にとっては、最悪の結果を招くことになるわ。だから一度は忠告してあげるの。


「失礼ですぞ! たとえとしても、元皇族に過ぎません!!」


 ああ、確定させてしまった。愚かな男だわ、あの程度の挑発に乗るなんて。私は微笑んだまま、反論せずに待った。周囲の貴族が動かないはずないもの。


「……お話中に失礼致します。お久しぶりでございます、姫様。先ほどのとは、何のお話でしょうか」


「久しぶりね、ローヴァイン侯爵。情報通のあなたがなんて、珍しいこともあるわね」


 エック兄様の幼馴染みであり、学友だった青年は優雅に一礼する。皇族に対する最敬礼を行い、私を皇族として扱った。これが正しい反応なの。我がリヒター帝国の貴族に、こんな裏切り者が紛れていたなんてね。


「おや、姫様はこのクラウスがと?」


 すべて知った上で近づいてきたようね。にっこりと邪気のない笑みを浮かべ、私のお遊びに付き合うと示した。クラウスは皇族派の重鎮だから、安心して任せられるわ。


「ええ、そうみたい。私も知らない情報を、アルムガルト伯爵はご存知だそうよ」


 扇をぱたんと畳む。ほっとした表情の貴族が何人か、胸を撫で下ろした。私が持つカメリアの扇は、過去にも何回か活躍してきた。罪を犯した者を断罪する際、必ず私の口元を隠してきたの。


 代々の皇妃や皇女が受け継いできた伝統よ。公然と言いふらしはしないが、我が国の貴族はほぼ把握しているはず。ならば、知らずに私に突っ掛かり、情報通のローヴァイン侯爵も知らない話を口にした彼は……?


 ここまで証拠が揃えば、冤罪ではない。


「ほぅ、貴殿は確か……アディソン王国からの婿入りでしたか」


 やはりクラウスも知っていたわね。


「な、なにを!」


「だって、私が出戻りだと貶めたでしょう? そんな話、我が国でするバカはいないわ。だって、私はですもの」


 政略結婚であり、帝国で結婚式もした。貴族なら私が隣国に嫁いだ話は知っている。でもね、私が戻ってきた話はまだ広まっていないの。故意に情報を止めた。私が帝国に戻って数日で、どうしてあなたが知っているの?


「……っ!」


 ようやく失言に気づいたようだけれど、かなり遅いわ。もっと早く、私が疑問を呈した時点で「勘違いでした」と引く潔さがなければ、諜報役は務まらないわ。察しの良さは必須だもの。


 畳んだカメリアの扇で、アルムガルト伯爵を指し示した。


「捕らえて。皇族に対する不敬と叛逆の嫌疑よ」


 広間の中にいた数人の騎士が動く。と同時に、腕に覚えのある貴族が数人、私を守るように間に入った。人の壁に守られ、私は隠すことなく笑みを浮かべる。


 これで残った鼠は身動きが取れなくなる。疑心暗鬼になった貴族は、互いを見張り合うわ。その間に、他国への根回しをしましょう。

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