一人の悪役令嬢が婚約者の王子から婚約破棄を突きつけられる……というオーソドックスな形でスタートする本作だが他の悪役令嬢と大きく異なる点は二つ。一つは婚約破棄されたはずのシアンが王子にあまりにもべた惚れで、この宣言も彼女の冤罪を晴らすためだと勘違いしていること。そしてもう一つは語り手となるのが、シアンの飼い猫スノーボールであることだ。
この猫のスノーボールが大変可愛らしいんですよ! 愛嬌たっぷりな語り口でナチュラルに人間を見下しつつも、下僕が困っているときに安心させるのも私の仕事だと、時には人間に大人しく抱かれたり撫でられたりする寛大さもお見せになる。しかし、世間の人々はそんなスノーボールをただの猫だと油断して、ついつい自分の秘密や不安を彼女に話してしまう。
婚約破棄を告げた王子は「シアンの自分への執着が怖い」と弱音をこぼし、聖女は「自分の思ったように事が進まない」と愚痴り、他国の王子は「自分の国にシアンを連れて帰りたい」というひそかな計画をこっそりと盗み聞きされてしまう。
そんな様々な権謀が渦巻く城内をどこ吹く風と言わんばかりに悠々と歩むスノーボールの姿が大変微笑ましい。悪役令嬢好き、そして何より猫好きの人には自信を持って勧められる一作です。
(「最近の悪役令嬢」4選/文=柿崎憲)