【二度目の人生はステゴロ最強】   転移先は剣と魔法が当たり前の世界ですが、俺の武器は体一つです

織田 クトルフ

第一部 修行編

第一章 刺青の男

第001話 白い部屋と残念美人

「おっはようございまーす! 新しい朝が来ましたよー!」




んん……何だ? やけにテンションの高い声が聞こえてくる……

もう少し寝かせて欲しいとゴネる体に鞭打ち、俺はゆっくりと起き上がった。


「おはようございます……」

「あれぇ? 元気がないですねー! 朝は苦手ですかー?」


苦手……か。確かに、得意ではないな。


「え、ええ。まぁ、どちらかというと夜型なんで」


けど、それ以上に……俺はが嫌いなんだ。


「それでは、少しずつ朝型に変えていきましょう!」


朝型に変えろ? 誰だか知らないが、はっきり言って余計なお世話なんだが。

嫌いなものは嫌いなんだ。頼むから放っておいてくれ。


「昔から、早起きは三文の徳と言いますしねー!」


ところでこれ、女性の声……だよな。




ん? 女性? 




俺の部屋に女性?


「だ、誰ですか! どうしてここに?」


まずい! アレとアレとアレとアレを隠さなくては!

いや待て。落ち着け。冷静になれ。俺は28年間、恋人どころか友人と呼べる女性すらいない、正真正銘、典型的な負け組弱者男性だろ?


じゃあアレか。酔ったいきおいで仲良くなって、そのままホテルに……

いや待て。落ち着け。冷静になれ。そもそも俺、酒飲めないじゃないか。ビール一口でぶっ倒れる奴に、そんな芸当げいとうができるわけないだろ?




じゃあ、この状況……

そんな俺の部屋に女性がいるというこの状況は、いったい何なんだ?


「変ですねー? っておっしゃいましたけど、貴方あなた、自分がどこにいるか分かってるんですか?」


いやいや。変なのは貴女あなたでしょう。さっきまで寝てたんだから、俺の部屋に決まってるじゃないですか。そもそも、貴女あなたがやってることは、不法侵入というれっきとした犯罪なわけで……


って、あれ?


「俺の部屋……じゃない?」 


いや。それどころか、見たこともない場所だ。壁も床も天井も、すべてが白一色で統一された、おかしな部屋。なんだか明るいなって思ってたけど、こんな真っ白に塗りたくられてたら、そりゃ明るいに決まってる。


「な……何だこれ?」 

「ぷっ……くく……」


「どこ? ここどこ?」

あせってるあせってる……ぶふぅっ!」


目が痛い。病院だってこんなに真っ白にしてないぞ。




「ここがどこか、教えてほしいですか?」


いったい、誰が何の目的で俺を拉致らちしたんだ?


目の前にいる女性が、一人で俺をここまで運んできたとは思えない。ということは、組織的な犯行? どこかに仲間がひそんでいるのか?


「そんなのいませんよー」


よかった。いないのか。

じゃあ次の疑問。この女性は誰だろう? もちろん初めて見る人だ。金髪ブロンドだけど、あまり外国人って感じはしない。年の頃は二十代前半? 25歳……にはなってなさそうだな。


「ていうか、拉致らちって……ぶふぅっ!」


何が可笑おかしいのか分からないが、女性は笑いを必死にこらえている。そしてたまに失敗しては、ぶふぅっ! と吹き出している。


とりあえず、彼女を観察して分かったことがある。

この人、美人であることは間違いないのだけれど、なんかちょっと……




? 何が言いたいんですか!」

「うわっ! 俺、声出してました?」


あわてる俺を尻目に、女性は得意気とくいげに腕を組んだ。


「私は人の心が読めるのですよ。たまに」


心が読める? 

そういえば……仲間がいるかもって思ったとき、質問する前に答えてたな。


しかし、いつもじゃなくて、とは……どうしてそう中途半端ちゅうとはんぱなんだろう。そしてその中途半端ちゅうとはんぱな能力を自慢じまんする際の表情、その腕を組むリアクション。


なんかこう……やっぱり、すべてにおいてアレな感じがするんだよな。

おっと、まずいまずい。そういえばたまに心を読めるんだった。




「とりあえず、これ……夢ですよね?」


うん。そう考えるのが自然だ。というか、それ以外考えられないだろ。


俺の質問に答えず、女性は得意気とくいげな顔をキープしたまま、ローブの袖口そでぐちから一枚の紙を取り出し、読み上げた。




「えーっと、多良木伸彦たらきのぶひこさん。28歳。男性。出身地は地球星の日本国」


どうやらあの紙には、俺のことが書いてあるらしい。


「えっと……そうです」

「某大学の教育学部を卒業するも、公立高校の教員採用試験に不合格。奨学金返済のため、やむなく問題児の巣窟そうくつとして知られる私立十六夜いざよい学園の社会科教員として就職」


それにしても、28年も生きてきたというのに、A4サイズの紙一枚でしまうのか。なんか悲しいな。


「しかし、十六夜いざよい学園で勤務する日々は想像以上に過酷。かといって、他の就職先を斡旋あっせんしてくれるようなつてもなく、社会的に孤立していく」


あ……なんか思い出してきた。


「そんな多良木たらきさんの心の支えとなったのが、ロリ顔Hカップのグラビアアイドル、こと東雲遥香しののめはるか


そうだ。完全に思い出した。


「しかし、彼女の熱愛報道が週刊誌にスクープされ、情緒不安定になった多良木たらきさん。気分転換のために登山をするも――」

滑落かつらくして死亡」


「ちゃんと覚えてるじゃないですか」

「そうじゃなくて、思い出したんですよ!」


ああ。全部思い出してしまったさ。生徒に保護者に主任に教頭、全方位から毎日のように罵倒ばとう叱責しっせき、たまに暴力まで飛んでくるんだ。まないわけがないだろう。で、連休を利用して大学時代の趣味だった一人登山に出掛けてみたら、病んだ心と運動不足の体は予想以上に衰弱すいじゃくしていて、俺は――


「よかった。思い出してくれたんですね」

「思い出したくはなかったですけど」


何てことだ。まさか童貞のまま死ぬことに――

って、じゃないな。薄々うすうす、そうなるんじゃないかとは思ってたよ。




「それでは多良木たらきさん。短い間かと思いますが、よろしくお願いします」

「は、はあ。こちらこそ」


女性は腰を折り曲げ、初めて挨拶をした。しかし、とりあえず返しはしたものの、何が『よろしく』なんだろう。そんなことを考えていると、彼女は口元に手を当て、くすくすと笑った。どうやら、また心を読まれてしまったらしい。


「とりあえず、私だけが貴方あなたのことを知ってるってのは公平フェアじゃないですよね。貴方あなたも私のこと、知りたいでしょう?」


そういって両手を広げ、笑顔のままくるりと一回転した。その動きに合わせて、たっぷりとしたローブの生地がひらひらと舞う。


何だろう。このにじみ出る。まあ、たぶん彼女にとって必殺の、最大限の、とっておきのだったんだろうけど、何の意味があるのか分からない。




やはり、最初に思った通り。

この人……美人は美人だけど、いわゆる残念美人なんだ。


「今のは読めましたよ!」

「うわっ! ごめんなさい!」

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